社会はみんな繋がっています
一般的にインフラ(社会基盤)と言えば、人間が社会活動を営むために不可欠な道路や橋や線路、港、防波堤や河川堤防などの防災施設などのハードウエアだと思われています。
しかし、私に言わせればこれは日本の役所の理屈です。自分たちの省庁ごとに権限を握りたがる彼らの習性の賜物です。
インフラとは、もっと広範囲で、人間があらゆる社会活動を行うにあたって、必要なモノや仕組み全般を指すと言えます。
そして重要なのは、これら全てが決して個人が整えられる規模ではないものだという点です。
ということは、電気や水道、ガスなどのエネルギーやテレビや電話やネットなどの通信環境から果ては治安を維持する警察組織、住民票や保険証、マイナンバーなどの社会共通の制度に至るまでが社会活動に不可欠で個人では到底整備できないのですから、インフラだと捉えるべきなのです。
未だにインフラ整備、公共事業というと税金の無駄遣いのイメージが根強くありますが、無駄遣いどころか今後も日本には益々必要になってくるものなのです。
その上インフラには作ったらそれでおしまい、という感覚があります。しかしインフラは常時メインテナンスとアップグレードを必要とするのです。
作るだけではない、インフラの常時メインテナンスとアップグレード整備の意外な重要性については、熊本地震を取り上げた下記の私のコラムを参照していただければ幸いです。
今や日本のハードウエアとしてのインフラは相当に整備されました。
●しかし、テレビや携帯電話やネットをビジネスとしてサービスする社会体制は万全でしょうか?
●ネット環境が10年前と激変しているのに、ネットと防犯システムや治安維持との連動は十分進んだでしょうか?
●保険証や住民票や印鑑証明や免許証はアプリでダウンロードできるようになったでしょうか?
こういった利便性を国民に提供するためには、技術が必要ですし制度も役所ごとではなく多角的に連動して行う必要があります。
電気やガスも同様です。
●日常生活にも社会活動にも益々必要量が増加する電気やガスをどうするのか?
●中東の石油を永続的に安定して安全に輸送できる環境をどう確立するのか?
●石油以外のエネルギーを確保するリスクヘッジはどう行うのか?
●気象変動で日本の天候も大きく変化していく中、今は豊富にある日本の水を将来にわたっていかに維持していくのか?
原発問題や石油問題などのエネルギー問題を、地球温暖化や水のこと、ネット社会や医療問題と別に扱い、同じように治安問題から果ては住民票に至るまで、それぞれ全部を箇々別々に単独で考えるから奇妙な神学論争に陥ったり政局ネタに利用されたり、役人に利用されたりするのです。
これからの日本に必要なのは、インフラ整備もエネルギー問題も社会制度も日本の社会活動全体のバランスの中で考えていくことなのです。
かつての土木業者は災害時に無料で復旧工事をやっていた!!
梅雨の増水と土砂崩れが誘発する土石流に備えよ!!
池田「今週は、生まれ故郷でもあり、私の実家も被災した熊本地震について話しましょう。まず初めに、被災された方々にお見舞いを申し上げます」
今回の熊本地震について、国や自治体の対応に問題は?
池田「まず、『熊本地震』という呼称が問題です。大分県の西部も熊本と同様の被害が発生しているのに、熊本地震という名前のため、マスコミもボランティアも熊本に集中してしまう。例えば大分県の湯布院なども甚大な被害が出ているのに、報道されないからボランティアの人も来ない。政府は速やかに、『九州中部群発地震』などといった呼称に変更すべきです」
災害復旧に関する対応についてはどうでしょう?
池田「この国では20年以上前から、公共事業はムダで、それに関係する土木業者は悪い奴らだというイメージが定着してきました。こ
の国民全体の意識に反応して、政府は公共工事に関する予算を削減し続けた。まさにこの弊害が、被災地で出てしまっているのです」
どういうこと?
池田「かつて公共工事を請け負っていた土木業者たちは、災害時に重要な役割を担っていました。自分たちが過去に工事をした現場はもちろん、国や自治体から緊急復旧要請があれば、自分たちとは関係のない現場にも即座に駆けつけ、自費で応急工事をしていたのです」
自腹で工事をするの!?
池田「彼らは普段、国や自治体から公共工事をもらって儲けているわけです。今後も仕事がもらえるよう、災害時には無料で自主的に工事を行なうことによって、役所からの印象を良くしたいという目論見もある。だから国や自治体の担当者は、被災地の業者の代表者に連絡して『よろしく』とひと声かけるだけでなんとかなっていたのです。しかもその繰り返しは、災害復旧工事のノウハウを業者に蓄積させることにもなった」
それなのに“公共事業はムダ”という考え方がまん延したせいで各地の土木業者は激減し、災害復旧工事のノウハウも消えてなくなってしまったと。
池田「そのとおり。今、復旧現場で問題となっているのは、作業員と重機の不足に加え、深刻な作業速度の遅さなのです。現場の作業員は慣れていないし、現場監督も経験不足だから的確な指示を出せない。国土交通省や自治体の担当者は図面上のことしかわからない。しかも、かつては長年の経験が蓄積されていたから、二次災害はどこが要注意なのかも、地元の業者たちは的確に判断できていた」
今回も二次災害の心配が?
池田「例えば崩落した阿蘇大橋です。この橋が架かかっていた深い峡谷はダムの建設計画があったところ。つまり、大量の水を蓄えるのに適した場所です。現時点でも激しい土砂崩れで川の流れが遮断されている。そこに梅雨が来れば、大量の土砂と水が一箇所に溜る。もしこの“天然ダム”が限界を超えて決壊すれば、未曾有の大土石流が下流域を襲うことになる」
今からやるべき対策は?
池田「今回の地震は『激甚災害』に指定されたので、復旧にかかる予算の9割は国から出ることになりました。しかしこれは、“既に発生した被害を復旧”するためにしか使えない予算で、“今後予想される被害の予防”には使えない仕組みなんです」
役所っぽいシステムだなあ。どうすればいいの?
池田「まずやるべきは、熊本と大分の両県知事が地元選出の国会議員に働きかけて、1兆円規模の予算を確保させることが最優先です。今は国会の会期中ですし、TPP関連法案の審議も先送りになったので、はっきり言って永田町はヒマ。だから速やかな審議・成立が可能です。さらに、市町村長と市町村議会議員たちが協力し合い、あらゆる地域情報を集積して災害のハザードマップを作ること。来るべき梅雨に備え、実効性のある防災体制を確立すべきです」
週刊プレイボーイ 2016年 No21号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』 第34話」より
公共事業の功罪
インフラ整備事業の良かったところ
今や日本全国どこに行っても文明生活に困ることは100%ありません。便利です。
道路、鉄道、飛行機、船の便がくまなく整備され、病院に役場、スーパーやコンビニなど流通商業施設も充実し、電気や水道、ガスが手に入らないところや携帯電話の通話が出来ないエリアを探す方が難しいくらいです。
インフラ整備である公共事業が、税金の無駄遣いだと思っている人が未だに多くいます。
しかし、公共事業のスペシャリストである私が断言します。確かにふざけた公共事業も沢山ありましたが、大部分の整備されたインフラは、少なくとも社会の役には立っています。
枯れ木に高級ワインを浴びせるような老人福祉よりも絶対に無駄ではありません。
インフラ整備の悪かったところ
便利になっただけ。
むしろ全ての地方が擬似都会になってしまったので、結局若い人はみんな本物の都会に行きたがるようになり、地方は衰退の一途を結果になってしまった。
インフラ整備事業に欠落していたのは地域特性に対する理解です。
どこかの役人が考えた「国土の均衡ある発展」という平等主義に基づいたインフラ整備が進むにつれて、地方はのっぺりとしてきた。人間で言えば出身地や両親や名前それに顔と性格を共通モデルに置き換えて行ったようなものです。
その結果、どんなに素晴らしい地域も街なみや田園風景を見たらどこだかさっぱり分からないくらい無個性になってしまいました。
自分の故郷熊本や青春の地岡山にしてもそうです。
山や川を見て見分けるしかありません。
多様性に満ちていた日本の各地方がただの僻地や田舎に成り果てたのです。
これはインフラ事業を推進する政治家、役人双方に日本の歴史と伝統に対する敬意が無かったからです。